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2016年06月27日

「マタニティハラスメント」は働き方の見直しの問題 育児や介護などさまざまな状況下の人々が働きやすい社会に

提供元: laxic

「マタニティハラスメント」は働き方の見直しの問題 <br />育児や介護などさまざまな状況下の人々が働きやすい社会に

「先進国である日本にマタハラという問題がある」
発展途上国の女性たちの驚きの声

「世界の勇気ある女性賞」授賞式の様子

ラシク編集長・宮﨑(以下・宮﨑):かなり短期間で活動が評価され、アメリカの国務省から「世界の勇気ある女性賞」を受賞されましたね。

小酒部さん(以下、敬称略 小酒部):2014年の7月にマタハラ被害者を支援する任意団体として立ち上げ、2015年の6月30日にNPO法人化しました。最初の立ち上げから7ヵ月後ぐらいの2015年3月に、活動が評価され、アメリカ国務省から「世界の勇気ある女性賞」をいただきました。

最初は、「マタハラ」という言葉を広めることに力を注ぎました。それまでメディアでは「妊娠解雇」とか「育休切り」という言い方をしていましたが、マタハラという言葉はそれらを全部包括するもの。「マタハラ」を団体名のど真ん中に持ってきたのも効果的でしたね。

立ち上げて約2ヵ月後の8月下旬に女性活躍推進法の審議があがり、11月にはマタハラ訴訟を起こした広島の女性が逆転勝訴したことで「マタハラ」自体のメディアの注目度があがり、マタハラNetがより注目されたというのもありますね。また、全国に同じ思いをしている女性たちがたくさんいてその怒りが限界だったということも、支持を得た理由でしょう。

広島の女性の最高裁弁論があったことによって、翌年の1月に厚生労働省が通達を出しました。今までは「妊娠を理由にした解雇や退職強要は違法」だったんですが、「妊娠を“契機”にした解雇や退職強要は違法」と。これによって女性たちが声を上げやすくなって、労働局へのマタハラ被害相談が増えたという経緯があります。

宮崎:授賞式での他国の方々の反応はいかがでしたか?

小酒部:授賞式に来ていた私以外の女性は全て発展途上国の人だったのですが、「先進国の日本でもそんなことがあるのか」という反応でした。日本と同じように少子化問題を抱えていたフランスは少子化を克服しているのに、日本はまだそんなことをやっているのかと。

アメリカには、「Pregnancy discrimination」(プレグナンシー・ディスクリミネイション)というマタハラに当たる言葉があるんですが、この法令が制定されたのが約40年前なんです。それぐらい前からこの問題を認識していたんですね。

ところで、「プレグナンシー」というのは「妊娠期間」だけを指す言葉です。しかし、“妊娠を契機にした”嫌がらせや不当な扱いは、「妊娠するのはちょっと待って」というような妊娠する前から始まるものもあり、流産しても終わらなかったり、育休を取るときとか育休から復帰する時にも降格されたり減給されたり、マミートラック(育児休業から復帰した女性の、昇進などとは離れたキャリアコースのこと)に乗せられたりと、ずっと続くんですよ。妊娠中の時期に収まらないのが日本のマタハラの概念なんです。

目の前に課題があるのに当事者の私が見て見ぬふりできない
今までに感じたことのない悲しみと怒りに突き動かされた

マタハラNetのキックオフイベント

宮崎:どうしてマタハラNetを立ち上げようと思ったのですか?

小酒部:私は流産でつらい思いをし、一刻も早く会社を離れたいという思いがありましたが、会社とのやり取りを録音してくれるなど、労働審判に向けては夫の方が前向きでした。しかし司法の場に行けば、人格否定のようなことを言われ、また辛い思いもしました。日本は労働者を守る制度や環境が整っておらず、解決金も十分とは感じられません。労働審判が終って1人で家にいても、会社への怒りや流産した悲しみを抱え、その怒りや悲しみはマグマのような勢いで。そんな気持ちを抱えているのなら、このエネルギーを何かにぶつけてやろうと。それがマタハラNetを立ち上げた原動力です。

また、自分が妊娠したことって本来ハッピーな出来事だったはずなのに、会社からの理不尽な扱いや結果的に会社を辞めることになってしまったことなど、嫌な思い出ばっかりになってしまって。妊娠したことを意味のないことにしたくなかった、という気持ちが大きかったですね。

宮崎:どんなメンバーで立ち上げたのですか?

小酒部:最初は、私とほかの被害者の女性2人と、賛同してくれる方数人の5~6人でした。今は正社員を含め、プロボノやボランティアの皆さんと活動しています。

宮崎:実名で声を上げるのは非常に勇気が要ることだったと思います。

小酒部:労働審判に向けては私より前向きだった夫が、私が実名で声を上げると言った時には反対しました。「もう十分やったよ。顔出し名前出しをするっていうことは、社会を相手にするということ。よっぽどハートが強くないとやっていけないんだよ」と。でもその時は私の方が「やる」っていう気持ちになっていましたね。目の前にやるべきことがあり、どういう行動をこの後起こしていけばいいかも見えていて、もう見なかったことにはできなかったですね。

「セクハラ」「パワハラ」とは異質な「マタハラ」
モラルで解決する問題ではない

宮崎:マタハラは重いテーマという印象がありますが、妊娠前と妊娠後の労働環境という問題なのですよね。しかし時には人は、産んでしまうと産む前の問題意識を忘れてしまったり、自分とは別問題と考えてしまう傾向もあるような気がします。

小酒部:皆さんにぜひ知っていただきたいのは、「セクハラ」「パワハラ」はモラル・人権問題という側面が大きいように思いますが、「マタハラ」はモラルを向上させれば解決する問題ではありません。働き方の見直しの問題なのです。三大ハラスメントとまとめられてしまっている「セクハラ・パワハラ」と「マタハラ」が全く異質だという認識を広めていきたいなと思っています。

宮崎:今までたくさんのマタハラの事例を見てきて、まだまだ日本の企業の取り組みは遅れていると感じますか?

小酒部:マタハラNetに来るのは割と深刻なケースなんですよ。完全にブラックでしょ、という違法性が高いケース。もちろん、きちっとできている企業もあるんですが、できている企業とそうでない企業の差がものすごく大きい。できていない企業の方が圧倒的に多いと思います。

恐らく、ハラスメントのない企業なんてないし、マタハラがない企業なんてないと言いきっていいと思います。しかしマタハラの場合は、「違法性を持つもの」と「嫌がらせに分類されるもの」の2種類があります。一部上場企業や意識の高い企業は、違法行為は少ないと思いますが、「同時に何人も妊娠するなよ」「妊娠する時期考えろよ」なんてポロッと言っていないでしょうか?これは「辞めたら」「降格させる」というような不利益扱いの言葉ではないのですが、十分マタハラです。

宮崎:女性活躍推進を掲げながら、女性を真に応援できていない会社も多いようですね。

小酒部:どこの企業もダイバーシティは大事、女性活躍を推進するべきだという想いはあるのですが、実際どうすればいいのかわかっていないケースがたくさんあると思います。

また、マタハラの場合深刻なのは、流産・早産につながる命にかかわる問題であること。でもマタハラで精神的苦痛を受けて流産・早産になっても会社がやったこととの因果関係の証明ができないので、慰謝料や保障って何もないんです。アメリカではストレスと流産・早産は、常識でリンクするものなんだそうです。でも日本の場合は、流産は染色体の異常だとお医者さんも説明しますし、精神的苦痛を受けることが流産・早産につながるという常識がまだできていません。

それ以前に、性や妊娠に対する常識もできていませんね。私たちが取ったアンケート調査だと、妊娠して熱が上がるということを知らない人が6割強いました。つわりについても気持ち悪くなる症状しか知らない人もいます。

宮崎:マタハラを受けている女性たちには、やはり声を上げてほしいですか?

小酒部:泣き寝入りはしないでほしいですね…。企業の人事やコンプライアンス担当者は、被害相談がなければ「うちにはマタハラはない」って言いきってしまうのです。でも、ご本人にプライベートを犠牲にして声を上げてくださいということも言えない。マタハラNetは「裁判した方がいいですよ」というようなことは言いません。決断するのはご本人ですし、声を上げるのも大変ですからね…。でも誰かがやらないと、変わらないんですよ。

マタハラの悲惨なところは、同じ女性も同僚も、本来マタハラを防止するはずの人事や経営層も加害者になりうるとことです。八方ふさがりになってしまう。何でこんなことが起きるのかと言うとやはり、働き方のハラスメントだからなんですよね。

マタハラ問題はダイバーシティの問題
フォローする側が報われる仕組みづくりを

小酒部さやかさん (C)斎藤大地

小酒部:今すごくダイバーシティが叫ばれています。日本でダイバーシティ人材というと、育児しながら働く女性ということになると思います。
問題なのは、ダイバーシティ人材がいることで他の社員にも好影響をもたらすんだという視点がまったくもって欠けていること。結局「やっぱり育児しながら働く女性は面倒くさい。辞めて」となってしまう。

宮崎:企業側も、ダイバーシティや女性活躍に取り組むべきという認識はあっても、それらを採り入れることで業績アップにつながるという発想になっていないところも多いですよね。

小酒部:掲げることが企業のステイタスなんだろうなと思っていても、どうやって取り入れ、業績アップにつなげるかということは何もできていません。

色々な企業を訪問して「本物だな」と思うのは、「そんな大したことやっていないんだけど、ニュースになるの?」というようなところ。ダイバーシティや女性活躍への取り組みがしみついて当たり前になっているんです。

宮崎:ダイバーシティを取り入れることで、他の社員にも好影響をもたらすためには、どういう取り組みが必要でしょうか。

小酒部:私たちの調査では、7割の企業は、産休育休で人が抜けた分は、残った周りの社員がフォローする体制だというんです。1000人以上の大企業でも7割がそうですね。

そんな中、ダイバーシティ人材だけが制度を使える状態だと、どうしてもやっかみが出てきてしまいます。ダイバーシティの目的は、ダイバーシティ人材を採ることで他の人にもいい影響が出て、みんなでWin-Winになっていくこと。みんなで新しい制度を整え、新しい風を入れていくことによって、それぞれの人が自分の最大限のパフォーマンスを発揮できる環境づくりです。

ダイバーシティ人材をフォローする人にも好影響をもたらすには、どんな方法があるか。一番オーソドックスなのが、フォローをする側の評価制度の見直しや、フォロー分の対価の見直し、産休育休を取らない・妊娠を望まない人にも長期の休暇が取れる制度を導入するなどの方法です。フォローする人たちに全くメリットがなければ「逆マタハラ」といわれる問題が発生します。

宮崎:これからマタハラNetとしてどんなことを目指していますか?

小酒部:これからは企業への啓発活動をどんどんしていきたいと思います。まずは、仮称ですが「マタハラ防止トレーナー育成セミナー」を開催し、マタハラとは何なのか、どんな事例があるのかをきちっと理解して語れる人を育成していきます。企業の人事労務担当者、研修会社の講師の方、社労士・産業カウンセラーの方々など、まずはそういう意識の高い人たちに受けてもらい、マタハラという問題を色々なところで語ってもらいたい。そういう人たちが増えてきたら、いよいよ企業研修です。私はどちらかというと「セクハラ・パワハラ・マタハラ」で研修をするよりも、マタハラと介護を契機にしたハラスメントの「ケアハラ」をあわせた「ファミリーハラスメント」として語っていく企業研修をしていきたいなと思っています。ケアハラの問題はまた深刻ですからね。

宮崎:これから、介護休職を取得する上司たちも出てくるでしょうね。

小酒部:そうなんです。男性・独身社員って、今まで会社にとっては一番使えるとされる存在だったわけですが、そういう人の親の面倒をだれが見るかといったら、本人しかいないわけです。ケアハラはこれから正に直面していく問題ですが、企業って目先の利益しか考えていないから、そういう時代が来るって思っていても後回しなんですよね。来てから考えればいいやと。

でも、働き方改革はちょっとやそっとでできるものではなくて、しかも1つの解決策ではありません。その会社独自の方法を見つけていかなくちゃいけないんです。従業員を大事にすることが利益につながるんだという当たり前のことを、もっと社会全体で考えていきたいですね。

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